INTERVIEW
鶴見和軌さん(クリエイター)
最初から正解を求めず、自分の言葉と目で良いものを選び取る力を
📆 2026. Oct(この記事に記載された情報は、インタビュー時のものです)
クリエイティブディレクターとして独立して活躍している、卒業4年目の鶴見さん。大学4年生から制作会社で仕事を始め、映像やWebの制作に携わったのち独立。現在はVTuber・音楽・エンタメ関連の企画・ブランディングや映像・Web制作を主軸に活動しており、「硝酸銀」名義で「映像作家100人2026」にも選出されています。卒業以来久しぶりに訪れた母校でのインタビューです。
自分でつくり、動いたことが、今の仕事につながっている
――今のお仕事について教えてください
ざっくりとした領域でいうと、VTuberや音楽、エンタメまわりが多いですね。企画やブランディングから、映像・Webの制作まで幅広く関わっています。
もともと3DCGを使った映像が得意で、そこがルーツなんですが、インフォグラフィックのような説明を目的としたプロモーション映像や、イベントのオープニング映像なども手がけます。
基本的には僕がディレクションをして、自分で制作することもあれば、規模によっては、その分野が得意なデザイナーさんやエンジニアさんにお願いして一緒に形にしていくこともあります。最近はディレクションの比率のほうが多いですね。
仕事のきっかけは、紹介が多いです。一度ご一緒して「よかったね」となって、「またお願いします」と声をかけていただく。そこからネットワークが広がっていく感じです。
[個人デザインスタジオ・tsumugi.]https://tsumugi.250nm.com/
――映像制作に興味を持ったのはいつごろですか?
中学生、高校生くらいのころから、趣味で映像や3DCGをつくっていました。もともと何かを表現することが好きだったんです。また、その頃は音楽ゲームが好きで、音と映像が一緒になることで生まれる表現を「面白い!」と感じ、影響を受けていました。
一方で、建築だったり、社会がどういう仕組みで動いているんだろうということだったり、工学的なことにも興味がありました。
「表現すること」と「技術や仕組みを考えること」。自分の中には、その両方への興味があったと思います。
――東京電機大学のデザイン工学科を選んだ理由は何ですか?
カリキュラムの幅が広かったことが大きいですね。
映像をやりたい気持ちは当時ありましたが、それだけを専門にするより、いろいろなことを学べるほうが自分の幅も広がるんじゃないかと思っていました。
映像や音楽、ゲームの分野で活躍している電大の卒業生がいることも知っていて、「自分の興味と合いそうだな」と感じたんだと思います。
できてまだ間もない学科で、僕は2期生でした。でも、今も昔もですが(笑)、知らないところに足を踏み込むことに躊躇はなかったので、新しいからという不安はあまりありませんでしたね。
――学生時代から、すでに仕事をしていたそうですね?
デザイナー向けの求人サイトを見て、自分からアプローチしました。それ以前から、自主制作したものを少しずつポートフォリオにまとめていたんです。授業でつくったものだけでは足りないので。
最初はインターンのような形で会社を見に行きました。当時は3年生だったので採用に関わるものではなかったのですが、そこから「映像の仕事を一緒にやりませんか」と声をかけてもらって、業務委託という形で入りました。
都内にあるデザイン事務所で、映像やWebデザインが中心。子ども向けのコンテンツやエンターテインメント系のコンテンツなど、いろいろな仕事を経験しました。卒業後もそのまま新卒で入社したので、在学中の1年と合わせて4年ほど在籍したことになります。
――大学の授業や研究はどうでしたか?
最初のころは、学科で30位くらいの成績だったと思います。上の方にいました。でも、在学中から仕事を受けるようになって、だんだん下がっていきました(笑)。最終的には100人以上いる学科で、80位くらいだったかな。
卒業研究は音響系の研究室で取り組みました。いま思うと、あそこで学んだことが今の仕事につながっている実感があります。卒業後、個人でVR作品をつくったことがあるんです。空間などの見えるところを考える人はすごくいるんですけれど、音のことを考える人ってそれに比べると少ないと感じていて。音がどう聞こえると、その体験がよりよくなるのか。工学的なアプローチで、音から空間や体験を逆算して設計する。そういう考え方が身についたのは大きいと思います。
効果音について考えるときも同じです。音って、ざっくり言えば波形なので、まったく同じ音でなくても、組み合わせることで近い音をつくれたりします。
つくる技術が進むほど、問われるのは人の目
――仕事で大切にしていることは?
できあがったものを長く持続させること、受けた仕事が公開されてどうなっていくか責任を持つこと。この2点が主です。
僕が関わっているエンタメやコンテンツの領域って、もう溢れかえっているんですよ。YouTubeやXなどのSNSを見ていても、自分の知らないものが山ほどある。このインタビューを読まれている方の中にもそう実感する場面はきっと多いと思います。
その中で、携わるコンテンツを長持ちさせるために自分の立場から何ができるんだろう、というのは必ず考えるようにしていて、お客さんとも積極的に話します。
――「鶴見さんに頼みたい」と思ってもらえる理由は何だと思いますか?
コンテンツの数もですが、作れる人自体もたくさんいます。そこでは差別化できないと見ています。
僕が大事にしているのは、そこに至るプロセスをすっ飛ばさないこと。
「こういうものをつくりたい」と言われたときに、「分かりました、つくります」で終わるのではなくて。「その企画なら、こういうやり方もあるんじゃないですか」と一歩踏み込んで提案する。最終的に採用されなくてもいいんです。場合によっては、「その目的なら、そもそもこの形でやる必要はないですよね」と話すこともあります。
外から関わる立場って、上下関係があまりないんですよ。その立場を活かして、お客さんの選択肢や視野を広げる提案をするようにしています。
――大学生活の思い出は?
大学生活を振り返って一番大きかったのは、人との出会いだと思います。在学中に出会った友人たちが、今それぞれの分野の第一線で活躍しているんです。社会に出た今でも「あいつこんなことしてるんだ」と刺激をもらえる。学生のころに切磋琢磨できる相手が周りにいたことは、自分の中では大きな財産だなと思っています。
出会ったのは英語の講義でたまたま一緒になって、そこからさらに学科の講義で交友がさらに広まっていった…とかだったので、大学という場に自分で足を運ばないと得られないものだとも思います。
――最後に、高校生へメッセージをお願いします。
ちょっと脇道に逸れますが、皆さんは「分からない」ことに直面してAIを使う場面はありますか。それを打ち込むまで、何秒あるでしょうか?
ちなみに僕も毎日のように使いますし、考えを整理するのに仕事で使う場面も多々あります。その上で言うと、その「打ち込むまでの数秒」が一番大事な時間です。
なぜ分からないのか、どこまでは分かっていて、どこから分からないのか。そのモヤモヤを自分の言葉にする前に答えをもらってしまうと、答えは手に入るのに、考える力だけが置いていかれる。重りを持たず、フォームだけ真似する筋トレのようなものだと思っています。
だからこそ、AIに聞く前に、まずは目の前の先生に差し出してみてほしいんです。「なんでこうなるんですか」だけでなく、「私はこう考えてみたんですけど、どうですか」と。AIは質問すればすぐ答えをくれますが、「その問いの立て方、そもそも違うんじゃない?」とは言ってくれません。それを言ってくれるのは、高校や大学の先生といった、目の前にいる人です。差し出さないと返ってこないものは、確実にあります。
――そうやって問いを磨くことが、なぜ大事なのでしょうか?
「それっぽくいいもの」は、いまや誰でも一瞬で作れてしまいます。皆さんが社会に出る頃には、それがもっと当たり前になっているはずです。だからこそ問われるのは、「作れること」と、「『これがいい』と自分で判断できる目」の両方。AIが選択肢を一瞬で大量に並べてくる時代に、「なぜこれなのか」を自分の言葉で選び取れるかどうかで、差がついていきます。
電大の「技術は人なり」という言葉が、学生の頃はピンと来ませんでした。でも、これだけ作れる技術をAIが提供するようになった今、最後にものの価値を決めるのは、やはりものづくりの視点がある人なのだと痛感します。
そして、その判断する目は、誰かの物差しを追いかけるだけでは育ちません。
自分の足で会いに行き、実際に見て、触れて、「自分はなぜこれをいいと感じるんだろう」と考える。その積み重ねでしか育たないものだと思います。
世の中に出ると、最初から答えが決まっている問いなんてほとんどありません。AIはそれに答えを出せても、最後にその答えにGOを出すか出さないかを決めるのはあなた自身です。
だからこそ、日頃から自分の意見を持って行動し、「自分なりの視点」を鍛えていってほしいと思います。



