教員紹介
自動車の外観デザインは「カースタイリング」(以下CS)と呼称され、機能から導かれた合理的な形態だけでなく、格好良さや新しさなど、情緒的な魅力を表現する必要性が高いことが特徴となっている。本研究は、大量生産による自動車産業誕生の機軸が形成された20世紀初頭の米国に焦点をあて、既往研究の断片的な情報を紡ぎ、このCSの成立過程の実像を明らかにすることを目的とした。 その結果、これまで1920年代の後半という曖昧な概念しかなかったカーデザイン の起源が、1920年にウォルター・クライスラーが設立したウィリス社のデザイン部門によるウィリス・ナイト車にあることを特定し、その後のカーデザインの成立過程に繋がったことを明らかにした。
本研究は大量生産により自動車産業が誕生した20世紀初頭の米国において、「カースタイリング」(以下CS)の具体的な表現手法を明らかにすることを目的とした。 調査にあたっては、当時最大発行部数を誇り、広告の博覧会と称された「The Saturday Evening Post」誌約1500冊に掲載されたCS関連広告を抽出する手法を採った。これらを対象とした理由は、広告宣伝はメーカーから顧客へのダイレクトな商品訴求であり、CSに関したメッセージの検分が可能と考えたためである。そしてその文章表現の分析から、顧客が自動車の外観に求める商品性が1920年代に大きく変化し、CSは外観の美しさをアピールするため、低く長い、新しいボディフォルムの創出から始まったという結論を導いた。
大量生産車の始まりであるT型フォードが、ゼネラルモーターズ社のシボレー車にスタイリングで敗北したことを多くの文献が歴史的事象として記している。しかし ながらその実態について言及した既往の研究を見つけることは難しく、現代においてその実相を知ることは困難である。 本論はこの状況の中、シボレー車がどのようにしてデザイン的に有利に立ったのか、当時の雑誌広告やカタログを読み解くことにより、その経緯と商品性を解明することを目的とした。結果、T型の生産性とコストの優位性は1920年代の半ばに、スタイリング戦略を強力に推進するシボレー車に追い上げられ、外観の急速な陳腐化から、生産中止を余儀なくされたことを実証した。